法務省は2026年8月7日、生成AIで実在人物の声を再現し、本人に無断で利用する問題について、既存の権利で保護できる場合があるとの考え方をまとめました。
AI音声を使えば、ナレーションや歌声を手軽に作れるようになりました。一方で、有名人や声優などに似た声を広告、動画、SNSへ使う場合、「AIで作った音声だから自由に使える」とは限りません。
今回の報告書は、新しい「AI音声禁止法」を作ったものではありません。パブリシティ権や人格に関わる利益など、すでにある法的な考え方を、生成AIによる声の無断利用へどう当てはめるか整理したものです。この記事では、法務省の見解と、企業が制作前に確認したいポイントを初心者向けに解説します。
この記事でわかること(結論)
- 法務省が示した見解:実在人物の声も、利用方法によってはパブリシティ権や人格に関わる利益の保護対象になり得る
- 一律に違法ではない:声が似ているだけで直ちに権利侵害と決まるわけではなく、本人との結び付き、公開方法、収益化などを踏まえて判断される
- 企業が確認すべきこと:本人や権利者の許諾、利用目的、誤認の可能性、元音源の権利、AIツールの規約を分けて確認する必要がある
- 実務への影響:広告、SNS動画、研修教材、音声コンテンツを制作する会社は、AI音声の権利確認を制作フローへ入れることが大切
法務省はAI音声の無断利用をどう整理したのか
法務省は、声も一定の場合に既存の権利で保護され得ると整理しました。ただし、生成AIで似た声を作る行為を一律に禁止したわけではありません。
法務省は、生成AIの普及によって肖像や声の無断利用が深刻化しているとの指摘を受け、2026年4月から有識者による検討会を開いてきました。検討結果をまとめた報告書では、声もパブリシティ権や、人格に由来する「みだりに利用されない権利」の対象に含まれ得るとの考え方が示されています(出典:法務省「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会 取りまとめ報告書」、2026年8月7日)。
法務省の検討会は、新しい権利や罰則を作るためのものではなく、現行法と裁判例を踏まえて、民事上の責任が生じ得る場面を整理する目的で設けられました(出典:法務省「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」)。
AIカバーの公開・収益化は権利侵害になり得る
報告書で示された代表例の一つが、歌手や声優の声を無断で模したAI音声によるカバー音源です。本人を思わせる声を使ってSNSへ公開し、広告収入などを得る場合は、その人物が持つ顧客を引き付ける力を利用したとして、パブリシティ権の侵害になり得ると整理されています。
重要なのは、AIを使ったかどうかだけではありません。誰の声だと受け取られるか、本人の人気や知名度を利用しているか、収益目的か、どのような説明とともに公開したかなど、利用の全体像が判断材料になります。
ものまねや声まねまで一律に禁止されたわけではない
ものまねや声まねは、本人ではなく芸として行われていることが分かり、本人だと誤解させない形であれば、直ちにパブリシティ権の侵害になるとは限りません。法務省の整理は、「似ている声を作ったらすべて違法」という内容ではない点に注意が必要です(参考:ITmedia AI+「声の無断利用が権利侵害に」、2026年8月7日)。
ただし、ものまねと表示していても、本人の名誉を傷つける内容や、本人が広告へ出演したように誤認させる使い方まで安全になるわけではありません。個別の利用方法によって判断は変わります。
声の無断利用ではどの権利を確認するのか
AI音声を仕事で使う場合は、「声の持ち主に関する権利」と「音源や楽曲に関する権利」を分けて確認します。AIツールの利用規約だけでは、すべての権利確認を終えたことになりません。
| 確認する権利・ルール | 初心者向けの意味 | 主な確認場面 |
|---|---|---|
| パブリシティ権 | 著名人の氏名、肖像、声などが持つ、商品やサービスへ人を引き付ける価値を守る考え方 | 有名人に似た声を広告、販売促進、収益化動画へ使う場合 |
| 人格に関わる利益 | 本人の声を、望まない形で勝手に使われないための人格的な保護 | 本人が話していない内容を話したように見せる場合や、名誉・尊厳へ影響する場合 |
| 著作権・著作隣接権 | 楽曲、歌詞、録音、実演など、声とは別に存在する作品や音源の権利 | 既存曲を歌わせる、元の録音を素材に使う、演奏や実演を利用する場合 |
| 契約・利用規約 | AI音声ツールや音声素材を、商用でどこまで使えるかを定めた条件 | 広告、顧客向け動画、有料教材、配信サービスへ掲載する場合 |
たとえば、AI音声ツールが「商用利用可能」と案内していても、実在人物に似せる許可まで自動的に得られるわけではありません。逆に、本人から声の利用許諾を得ていても、既存の楽曲や録音を使う場合は別の権利確認が必要です。
企業がAI音声を使う前に確認したい5項目
企業はAI音声を公開する前に、声の出所、本人の許諾、利用目的、誤認表示、関連する権利を確認すると判断しやすくなります。確認内容を制作担当者だけに任せず、社内の共通手順として残すことも大切です。
- 実在人物を連想させる声か
人物名を指示していなくても、声質、話し方、動画タイトル、説明文などから特定の人だと受け取られる可能性を確認します。 - 本人または権利を管理する関係者の許諾があるか
許諾の対象が、学習用音声の提供だけなのか、生成・公開・広告利用まで含むのかを契約書で分けて確認します。 - 広告・販売・収益化に使うか
商品購入を促す広告や収益化動画では、人物の知名度や顧客吸引力を利用していると判断される可能性が高まります。 - 本人が話したと誤解されないか
AI生成であることを表示しても、本人の出演や推薦だと受け取られる構成になっていないか確認します。 - 元の楽曲・音源・ツール規約も確認したか
声の権利だけでなく、楽曲、歌詞、録音、配信先、AIツールの商用利用条件まで確認します。
制作を外注する場合も、権利確認を外注先へ任せきりにしない方が安心です。発注書や確認表に「実在人物を模した音声を使わない」「必要な許諾資料を納品時に提出する」といった条件を入れておくと、確認漏れを減らせます。
広告・動画・研修教材ではどう対応するか
AI音声を使う業務では、利用場面によって確認事項・確認の重さを変更すると運用しやすくなります。外部公開や商用利用に近づくほど、許諾と記録を丁寧に残す必要があります。
社内だけで使う試作音声
企画検討用の仮ナレーションなど、社外へ公開しない試作は、広告公開より影響が限られる場合があります。ただし、無断で取得した音声を学習素材に使わず、社内共有の範囲や保存期間も決めておきましょう。
会社紹介・広告・SNS動画
顧客や一般の視聴者へ公開する動画では、実在人物に似ていない正式なライセンス付き音声を選ぶ方法が現実的です。著名人や社員本人の声を再現する場合は、利用媒体、期間、地域、編集範囲、再利用の可否まで書面で確認します。
研修教材・案内音声
研修教材や電話案内は、利用期間が長く、複数の部署へ転用されやすいコンテンツです。契約時に想定していない二次利用が起きないよう、更新・複製・社外提供の範囲を管理しておく必要があります。
AIで作った音楽を公開する際の基本的な注意点は、Geminiの音楽生成を試した記事でも紹介しています。今回の法務省報告書は、その中でも特に「実在人物の声を無断で再現する場合」に焦点を当てた最新の整理です。
実務上の注意
AI音声の権利確認では、商用利用、権利の種類、報告書の位置付けを混同しないことが重要です。
ツールの「商用利用可」と本人の許諾は別
AI音声ツールの規約で商用利用が認められていても、特定の人物の声を無断で模してよいという意味ではありません。ツール提供者との契約と、声の持ち主に関する権利は別の確認項目です。
声と楽曲・録音・実演の権利を一緒にしない
AIカバーでは、人物の声に関する問題だけでなく、楽曲、歌詞、元音源、演奏、実演など複数の権利が関係する場合があります。「声の許諾があるから公開できる」「元曲の許諾があるから声を似せてもよい」とは限りません。
法務省の報告書は個別案件の結論を決めるものではない
法務省の報告書は、現行法と裁判例をもとに考え方を整理した解釈指針です。最終的な権利侵害の有無は、具体的な制作方法、公開内容、契約、本人との結び付きなどを踏まえて個別に判断されます。
まとめ
法務省は、実在人物の声も、利用方法によってはパブリシティ権や人格に関わる利益で保護され得ると整理しました。AIで声を作れることと、その声を広告や動画へ使えることは別の問題です。
企業は公開前に、誰の声として認識されるか、許諾があるか、収益目的か、本人の発言と誤認されないか、楽曲やツールの権利確認が済んでいるかを確認しましょう。AI音声の利用可否を担当者の感覚で決めず、制作フローとして残すことがトラブルの予防につながります。
よくある質問
AIで有名人に似た声を作ると、すべて違法になりますか?
すべてが直ちに違法になるわけではありません。本人との結び付き、公開方法、収益化、誤認の可能性などを踏まえて、既存の権利を侵害するか個別に判断されます。
AI音声ツールが商用利用可能なら、広告にも自由に使えますか?
自由に使えるとは限りません。ツールの利用規約とは別に、実在人物の声、楽曲、録音、実演などに関する許諾を確認する必要があります。
ものまねや声まねも権利侵害になりますか?
本人ではなく芸として行われ、視聴者に本人だと誤解させないものまねは、直ちにパブリシティ権の侵害になるとは限りません。ただし、広告利用や名誉を傷つける内容など、利用方法によって判断は変わります。
社内だけで試すAI音声にも許可は必要ですか?
社外公開より影響が限られる場合はありますが、無断取得した音声の利用や契約違反が許されるわけではありません。素材の入手方法、社内共有の範囲、保存期間を確認してください。
企業はAI音声の利用ルールをどこから作ればよいですか?
まず、実在人物を模した音声を使う場合の許諾、外部公開前の確認者、権利資料の保存方法を決めましょう。AI利用全体の注意点は、著作権・個人情報・バイアスの基礎知識も参考になります。
関連する用語・出典
- パブリシティ権:著名人の氏名、肖像、声などが持つ顧客吸引力を排他的に利用する利益を守る、判例上認められてきた権利。
- みだりに利用されない権利:肖像や声など、人格と深く結び付く情報を望まない形で勝手に利用されないための人格的な保護。
- AIカバー:生成AIなどで特定の人物に似た歌声を作り、既存曲や別の楽曲を歌わせた音源・動画。
- 法務省報告書:「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会 取りまとめ報告書」(2026年8月7日公表)。
- 法務省検討会:開催趣旨・構成員・開催状況。
- 報道資料:ITmedia AI+「声の無断利用が権利侵害に」(2026年8月7日公開、同日更新)。
※本記事は2026年8月10日時点で確認できる法務省の報告書と公開情報をもとに、一般的な考え方を整理したものです。個別案件の法的判断や法律相談を目的とするものではありません。実際の制作・公開・契約では、利用方法に応じて弁護士などの専門家へご確認ください。
運営元について
AXメディアは、株式会社ジーズ AX事業部が運営しています。AX事業部では、AI研修・AIエージェント開発・ローカルLLM開発・補助金/助成金の活用支援を提供しています。

