Reutersが2026年8月13日に報じた調査では、回答した日本企業の60%がAIを一部の業務や限定的な範囲で利用し、全社の重要な道具として活用している企業は16%でした。
AIツールを契約し、社内で使える状態にしても、仕事の進め方まで変わるとは限りません。文章の下書きや要約には使われていても、その前後にある情報収集、確認、承認、共有が従来のままなら、活用範囲は個人の作業内にとどまりやすくなります。
AI前提の業務設計とは、現在の手順をそのままAIへ置き換えることではありません。入力する情報、AIに任せる処理、人が判断する箇所、完成物の渡し先、利用記録までを一つの流れとして組み直すことを指します。
この記事では、Reuters調査の内容を確認したうえで、すでに一部でAIを使っている企業が、単発利用から再現できる業務フローへ進む方法を整理します。
この記事でわかること(結論)
- 日本企業のAI活用状況:調査回答企業の84%は、限定利用、導入未定、導入予定なしのいずれかの結果に
- 本格活用へ進みにくい理由:AIの操作方法だけでなく、前後工程、確認責任、共有方法まで設計する必要がある
- 業務設計の進め方:すでにAIを使っている定型業務を一つ選び、引き継ぎ点と例外処理まで標準化する
Reuters調査で分かった日本企業のAI活用状況
Reuters調査の回答企業では、AIを全社の重要な道具として展開している企業は16%にとどまり、84%は本格展開前の段階にありました。
調査は日経リサーチがReutersのために2026年7月29日から8月6日まで実施し、510社のうち219社が匿名で回答しました。回答の内訳は次のとおりです(出典:Reuters「Strong majority of Japanese firms have yet to fully embrace AI」、2026年8月13日)。
| AIの活用状況 | 回答割合 |
|---|---|
| 一部業務や限定的な範囲で利用 | 60% |
| 導入するか未定 | 18% |
| 導入を検討していない | 6% |
| 全社の重要な道具として展開 | 16% |
注目したいのは、利用の有無だけでなく、活用の深さです。全社で使い始めた企業からも、用途は文書作成などに限られているという回答が寄せられました。利用者を増やすことと、業務全体を変えることは、同じではありません。
AI関連予算については、今後1〜2年で増額を見込む回答が合計55%に達し、削減予定と答えた企業はありませんでした。一方、31%は予算方針をまだ決めていません。予算を確保する動きがあっても、具体的な使い方を決められなければ、本格活用にはつながりにくいと考えられます。
なぜAIが一部業務の利用で止まりやすいのか
AI活用が限定的なまま止まりやすい構造の一つは、AIを使う一場面だけが改善され、仕事の入口から完了までがつながっていないことです。
Reuters調査だけで、各企業の停滞理由をすべて断定することはできません。ただし、「実務でどう使えばよいか分からない」「全社導入後も文書作成が中心」という回答からは、ツール導入後の業務設計が課題になっている様子がうかがえます。
AIへ渡す前の情報準備が人任せになっている
AIへ依頼するたびに、担当者が必要な資料を探し、前提を説明し、形式を考えていると、使える人だけが速くなる状態から抜け出せません。入力情報の置き場所や渡し方が決まっていないため、毎回ほぼ最初から準備することになります。
AIの出力後に誰が何を確認するか決まっていない
AIが下書きを作っても、数値、固有名詞、判断内容を誰が確認するのか曖昧では、完成物として次の担当へ渡せません。確認責任が不明な業務ほど、安全を優先して人が最初から作り直し、AI利用が定着しにくくなります。
うまくいった使い方が個人の中に残っている
一人の担当者が便利な指示文を持っていても、入力例、確認項目、例外時の対応が共有されなければ、チームの仕組みにはなりません。個人の工夫を、誰でも再現できる手順へ変える工程が必要です。
導入前に管理職が決める目的、対象業務、利用ルールについては、企業の生成AI導入で管理職が最初に決めるべき5つのことを解説した記事で整理しています。本記事では、導入後に一部利用から抜け出す業務フローへ範囲を絞ります。
AI前提の業務設計では何を変える?
AI前提の業務設計では、AIを使う場面だけでなく、情報の受け取りから確認、共有、記録までを一続きに設計します。
従来の部分的な利用と、業務フローとして設計した状態を比べると、違いが分かりやすくなります。
| 確認項目 | 部分的なAI利用 | AI前提の業務設計 |
|---|---|---|
| 入力 | 担当者が毎回資料を探して説明する | 参照資料、入力形式、禁止情報を決めておく |
| AIの役割 | その場で要約や文章作成を頼む | 処理範囲と完成条件を手順として定義する |
| 人の役割 | 出力後に担当者が感覚で直す | 確認項目、承認者、停止条件を明確にする |
| 出力 | 形式が毎回変わる | 次の担当が使える形式へ統一する |
| 記録 | チャット履歴が個人アカウントに残る | 使用した資料、確認者、修正点を残す |
業務フローを設計する前には、現在の手順を見える化する必要があります。ヒアリングメモから全体像を整理する方法は、Claudeで業務フローを見える化する手順を紹介した記事も参考になります。
導入しただけで終わらせない5つの進め方
本格活用へ進むには、すでにAIを使っている業務を一つ選び、前後工程と引き継ぎ方法を順番に整えます。
1.すでに使われている定型業務を一つ選ぶ
最初から全社の業務を作り直す必要はありません。議事録の整理、週次報告の下書き、問い合わせ内容の分類など、誰かがすでにAIを使っており、繰り返し発生する業務を選びます。
対象業務は、入力と完成物が比較的分かりやすく、誤りが起きても人が公開前に修正できるものが向いています。
2.AI画面の前後にある作業まで書き出す
「AIで報告書を作る」だけでは、業務フローになりません。元データを誰が用意するのか、AIへ何を渡すのか、出力を誰が確認するのか、完成物をどこへ保存するのかまで並べます。
前後の作業を含めて整理すると、AIより先に直すべき重複作業や、不要な転記が見つかる場合もあります。
3.AI、人、システムの引き継ぎ点を決める
各工程を「AIが実行」「人が判断」「既存システムが処理」の3つに分けます。外部送信、公開、契約、金額確定などは人の承認を残し、AIが判断してよい範囲を広げすぎないことが大切です。
AIが処理を続けられない条件も決めておきます。資料不足、数値の不一致、権限不足が起きた場合は、推測で進めず担当者へ戻す設計にします。
4.入力テンプレートと確認表を共通化する
AIへの指示文だけでなく、必要資料、入力順、出力形式、確認項目を一つのセットにします。担当者が変わっても同じ流れで進められる状態になれば、個人利用からチーム運用へ移せます。
完璧なマニュアルを最初から作るより、実際の作業で迷った点を追記しながら育てる方が、現場に合う手順になります。
5.例外と修正内容を記録してから横展開する
削減時間だけでなく、AIが止まった条件、人が直した箇所、確認に時間がかかった部分も記録します。例外が繰り返される場合は、入力資料や確認ルールを先に直します。
一つの業務で安定してから、似た流れを持つ別の部署や作業へ広げます。成功した指示文だけを配るのではなく、前後工程と確認方法を含む業務フローとして共有することが重要です。
実務上の注意
Reuters調査を自社のAI活用へ当てはめる際は、数字の範囲と「本格活用」の意味を分けて理解する必要があります。
16%はすべての業務をAI化した企業の割合ではない
Reuters調査の16%は、AIを全社の重要な道具として展開していると回答した企業です。全業務を自動化している割合ではなく、全社展開した企業でも文書作成などに用途が限られる場合があります。
60%の限定利用だけでは成果の大小を判断できない
一部業務での利用には、個人の試用から部署単位の定着まで幅があります。60%という数字だけでは、削減時間、品質、売上、事故件数などの成果までは分かりません。自社では利用人数より、対象業務と改善結果を記録する必要があります。
予算を増やすだけでは業務フローは変わらない
調査ではAI予算の増額を見込む企業が多く、削減予定の回答はありませんでした。新しいツールや利用枠を増やしても、入力、確認、承認、記録の流れが決まっていなければ、用途が増えるとは限りません。
まとめ
Reuters調査に回答した企業では、AIを一部の業務や限定的な範囲で使う企業が60%を占め、全社の重要な道具として展開している企業は16%でした。AIを使える状態と、AIが業務フローへ組み込まれた状態には差があります。
本格活用へ進む第一歩は、新しいツールを増やすことではありません。すでにAIを使っている定型業務を一つ選び、入力、AIの処理、人の確認、完成物の共有、改善記録までを一つの流れへつなげることから始めましょう。
よくある質問
AIを全社で使えるようにすれば本格活用といえますか?
全社で利用できるだけでは十分とは限りません。業務ごとに入力、AIの役割、人の確認、完成物の共有まで決まり、同じ流れを再現できる状態が本格活用の目安になります。
どの業務からAI前提で設計し直すとよいですか?
すでに誰かがAIを使っている、繰り返しの多い定型業務から始めます。入力と完成物が分かりやすく、外部公開前に人が確認できる業務が取り組みやすい対象です。
AIの業務フローは誰が作るべきですか?
現場担当者だけで決めず、業務を知る担当者、最終判断をする上司、必要に応じて情報システムや法務が一緒に設計します。実際の手順と責任範囲の両方を確認できる体制が必要です。
AI活用の効果は何で測ればよいですか?
作業時間だけでなく、修正回数、確認時間、差し戻し、例外件数も記録します。速くなったかに加え、品質と安全性が保たれているかを確認してください。
小規模な会社でも業務設計は必要ですか?
人数が少ない会社ほど、担当者の異動や不在でAI活用が止まりやすいため、簡単な手順化が役立ちます。最初は1ページの入力テンプレートと確認表から始められます。
関連する用語・出典
- Reuters企業調査:日経リサーチが2026年7月29日から8月6日に実施し、510社中219社が匿名回答したAI活用状況の調査(Reuters)
- AI本格活用:AIを単発の作業補助にとどめず、複数の担当者が再現できる業務フローへ組み込むこと
- 業務フロー:仕事の開始から完了までに、誰が何を行い、どこで確認や引き継ぎが発生するかを示した流れ
- 標準化:担当者が変わっても、同じ入力、手順、確認基準で業務を進められる状態にすること
- 例外処理:資料不足や数値不一致など、通常手順では完了できない場合の停止・確認・引き戻し方法
※本記事は2026年8月13日時点のReuters報道をもとに作成しています。調査結果は回答した219社の状況を示すもので、日本企業全体の実態や各社の生産性向上を直接示すものではありません。AIを業務へ組み込む際は、自社の情報セキュリティ、個人情報、契約、著作権、承認規程を確認してください。
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