AI研修に事業展開等リスキリング支援コースを使えるかは、「AIを学ぶこと」ではなく、会社が何を変え、そのために誰がどの技能を身につけるのかで判断します。
新しい事業や社内DXに必要なAI研修は、人材開発支援助成金の「事業展開等リスキリング支援コース」の対象になり得ます。ただし、研修会社が「助成金対応」と案内しているだけでは、自社も対象になるとは限りません。
この記事では、2026年9月7日時点の厚生労働省の支給要領・詳細版パンフレットをもとに、事業の目的・担当職務・必要な技能・研修内容が要件に合うかを判断するポイントと、申請前に準備する内容を整理します。人材開発支援助成金全体の仕組みは、人材開発支援助成金でAI研修費は出る?仕組みと落とし穴で確認できます。
この記事でわかること(結論)
- 対象となる目的:事業展開やDXなどに必要な専門的知識・技能を身につける研修が対象になり得ます。
- AI研修の判断基準:受講者の担当職務と研修内容に直接的な関係があることが重要です。
- 対象者:雇用保険の被保険者であることなど、事業主・労働者それぞれの要件を確認します。
- 助成内容:訓練経費に対する経費助成と、条件を満たす訓練中の賃金に対する賃金助成があります。
- 申請準備:会社の計画、対象者の職務、カリキュラム、計画届などを対応させて準備します。
AI研修がリスキリング支援コースに合うかは4つのつながりで考える
事業展開等リスキリング支援コースでは、会社の変化、従業員の担当職務、必要になる技能、受講する研修が一続きになっているかを確認することが重要です。
まず会社が何を変えようとしているかを整理する
事業展開等リスキリング支援コースは、現在と同じ業務をそのまま続けるための一般研修ではなく、事業展開やDXなど、企業の変化に必要な能力を従業員が身につけるためのコースです。
現在の支給要領では、主に次のような目的が定められています。
| 目的区分 | AI研修との関係 | 確認するポイント |
|---|---|---|
| 事業展開 | 新しい事業分野や、商品・サービスの提供方法の変更などに必要なAI技能を学ぶ | 事業展開の内容と、研修で習得する技能の関係を説明できるか |
| デジタル・DX化等 | 業務のデジタル化やDXに関連する職務へ必要なAI技能を学ぶ | DXの内容と受講者の担当職務が具体的になっているか |
| 将来の異なる職務 | 人事・人材育成計画に基づき、今後担当する異なる職務に必要な技能を学ぶ | 配置予定や人材育成計画など、この区分固有の要件を満たすか |
事業展開を目的とする場合、支給要領では、原則として訓練開始日から3年以内に実施する予定の事業展開、または訓練開始日の6か月前までに実施した事業展開との関係を確認します。単に「AIを導入したい」というだけではなく、何を変えるための研修なのかを具体化する必要があります。(出典:事業展開等リスキリング支援コース支給要領)
AI研修の内容は担当職務に直接関係している必要がある
2026年8月3日の改定では、DX・GXに関する訓練であっても、職務に間接的にしか関係しない内容や、職種を問わず共通して必要となる基礎的な内容は対象外となる考え方が示されています。
例えば厚生労働省は、営業担当者が生成AIを使って営業用の提案資料を作成・修正する技能を学ぶ研修を、職務との関係が具体的な例として示しています。一方、利用する職務を特定せず、一般的なプロンプトの作り方だけを学ぶ内容は、職務との直接的な関係が弱い例として示されています。(出典:厚生労働省「令和8年8月3日の主な改正内容」)
そのため、研修名が「ChatGPT研修」「生成AI研修」であるかよりも、誰が、どの業務で、何をできるようになるために受講するのかを確認することが重要です。
対象事業主・対象労働者・訓練の基本条件を確認する
研修内容が事業目的に合っていても、それだけで助成対象になるわけではありません。事業主、受講する労働者、訓練そのものについて、それぞれの要件があります。
事業主は雇用保険の適用事業所であることなどが必要
対象となる事業主は、雇用保険の適用事業所の事業主であることなど、支給要領で定められた要件を満たす必要があります。
さらに、職業能力開発推進者を選任し、労働組合等の意見を聴いたうえで事業内職業能力開発計画を作成し、従業員へ周知することなども求められます。
訓練費用の負担や賃金の支払い、帳簿・証拠書類の保存なども必要です。制度を利用する前に、会社側の教育・申請体制まで確認しておきましょう。(出典:事業展開等リスキリング支援コース 詳細版パンフレット)
対象労働者は雇用保険の被保険者かを確認する
対象労働者は、原則として訓練期間中に申請事業主の雇用保険被保険者であり、対象労働者として計画へ記載された人です。
正社員だけを対象とする制度ではありません。雇用保険へ加入しているパート・有期契約社員なども、他の要件を満たせば対象になり得ます。一方、雇用保険の被保険者に当たらない代表者や、雇用関係のない業務委託先を同じ扱いで申請することはできません。
雇用契約書や労働条件通知書に記載された職務と、研修の到達目標がつながっているかも確認しておきましょう。(出典:事業展開等リスキリング支援コース支給要領)
通常の仕事と区別したOFF-JTとして実施する
助成対象となる訓練は、通常の業務を行いながら覚えるだけではなく、原則として通常業務と区別したOFF-JTとして実施します。
対面研修や同時双方向型の通信訓練では実訓練時間数などの条件があり、eラーニングや定額制サービスでは時間・修了の考え方が異なります。受講形式ごとの細則は同じではないため、予定する研修方法に対応する最新の支給要領・パンフレットを確認してください。
OFF-JTの実施主体や講師の要件なども研修方法によって変わります。(出典:詳細版パンフレット「対象となる訓練等」)
経費助成と賃金助成は分けて考える
事業展開等リスキリング支援コースでは、研修費そのものに対する経費助成と、条件を満たす訓練中の賃金に対する賃金助成があります。
| 助成の種類 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|
| 経費助成 | 対象経費の75% | 対象経費の60% |
| 賃金助成 | 対象となる訓練について1人1時間当たり1,000円 | 対象となる訓練について1人1時間当たり500円 |
経費助成では、受講料など対象となる訓練経費を事業主が負担する必要があります。「受講料の75%が必ず戻る」という意味ではなく、対象経費、企業規模、訓練方法、支給限度額などを踏まえて支給額が決まります。
また、賃金助成はすべての受講形式に共通するものではありません。オンライン受講を予定している場合は、研修形式ごとの扱いを分けて確認してください。(出典:詳細版パンフレット「助成率・助成額」)
研修を申し込む前に4種類の情報・資料をそろえる
申請準備では、書類を集めること自体よりも、会社の計画、対象者、研修内容、申請資料の内容が矛盾なく対応していることが重要です。
会社の計画を整理する
まず、どのような事業展開・DXを予定しているのかを整理します。新しい業務の内容、現在の課題、変更後に従業員へ求める役割まで言語化しておくと、研修の必要性を説明しやすくなります。
対象者の職務と雇用情報を確認する
受講させる従業員について、担当職務、雇用保険への加入状況、研修後に担う業務を確認します。研修カリキュラムと対象者の職務を並べ、なぜこの人がこの研修を受けるのかを説明できる状態にしておきます。
研修カリキュラムと日程を確認する
研修会社から、カリキュラム、受講案内、実施日程、料金内訳などを取得します。研修名だけを見るのではなく、科目ごとに何を学び、どのような技能を習得するのかを確認してください。
計画届などの申請資料を準備する
このコースでは、研修前に提出する職業訓練実施計画届に加え、事業展開・DX等と訓練の関係を示す事業展開等実施計画などを準備します。
事業内職業能力開発計画は会社全体の人材育成方針、職業訓練実施計画届は今回実施する訓練の計画、事業展開等実施計画は事業の変化と訓練の必要性を説明する資料です。名称が似ていますが、役割は異なります。
計画届は原則として訓練開始日の6か月前から1か月前までに提出します。研修開始後に準備を始めるのではなく、申し込み前から確認しておきましょう。(出典:詳細版パンフレット「計画届時に必要な書類」)
計画届の基本的な流れは、人材開発支援助成金の計画届とは?研修前提出の注意点でも整理しています。
実務上の注意
制度の目的に合っていても、適用時期や研修の実態を誤ると、申請時に問題になる可能性があります。
見落とされがちな条件:8月3日改定には経過措置がある
2026年8月3日の改定後に計画届を提出する場合でも、契約・申込みの時期などによって従前の取扱いが適用される経過措置があります。
計画届を出した日だけで新旧の要件を判断しないことが重要です。契約日、申込日、訓練内容を確認し、自社がどの規定に該当するか判断が難しい場合は、研修開始前に管轄労働局へ確認してください。(出典:事業展開等リスキリング支援コース支給要領「経過措置」)
間違えやすい用語・種別:研修と業務代行は別
自社の業務を題材にしてAIの使い方を学ぶことと、外部事業者に実際の業務改善計画や成果物を作ってもらうことは同じではありません。
通常の事業活動や経営改善の指導などは、対象外となる訓練の例に含まれています。従業員が技能を身につけるための研修なのか、業務そのものを外部へ依頼しているのかを分けて確認しましょう。(出典:詳細版パンフレット「対象とならないOFF-JT」)
誤解しやすい前提:計画届を出せば受給が決まるわけではない
計画届を提出・受理されても、助成金の受給が確定するわけではありません。訓練実施後には、研修内容、受講実績、費用の支払い、証拠書類などをもとに支給審査が行われます。
研修会社の「助成金対応」という表示だけで受給を前提にせず、自社の条件を確認してください。2026年9月7日時点の最新情報は、厚生労働省「人材開発支援助成金」公式ページで確認できます。
まとめ
AI研修に事業展開等リスキリング支援コースを使えるか判断するときは、「AI研修かどうか」ではなく、会社の変化・担当職務・必要な技能・研修内容がつながっているかを確認することが重要です。
助成率だけを見て研修を選ぶのではなく、まず自社が何を変えたいのかを整理し、対象者の職務とカリキュラムを照合しましょう。条件が合わない場合は、申請理由を後付けするのではなく、研修内容や利用する制度自体を見直す必要があります。
他のAI研修向け制度も含めて検討したい場合は、AI研修に使える助成金とは?人材開発支援助成金を中心に比較も参考にしてください。
よくある質問
新しい事業を始めない会社でも対象になりますか?
対象になる可能性があります。新規事業だけでなく、既存事業のDXなどに必要な専門的知識・技能を身につける訓練も対象になり得ます。
ChatGPTの基本操作を学ぶ研修だけでも対象になりますか?
ツールの基本操作を学ぶだけでは判断できません。受講者の担当職務と研修内容に直接的な関係があり、業務上必要な技能を習得する訓練かを確認する必要があります。
パートや有期契約社員も対象になりますか?
訓練期間中に申請事業主の雇用保険被保険者であることなど、所定の要件を満たせば対象になり得ます。雇用形態だけでなく、担当職務と研修内容も確認してください。
オンラインのAI研修でも対象になりますか?
対象になり得ます。ただし、ライブ形式、eラーニング、定額制サービスでは、時間・修了・記録・賃金助成などの取扱いが異なるため、予定する受講形式に対応する要件を別途確認してください。
関連する用語・出典
- 事業展開等リスキリング支援コース:事業展開やDXなどに必要な新しい知識・技能を従業員が習得するための人材開発支援助成金のコースです。
- OFF-JT:通常の業務遂行とは区別して実施する教育訓練です。
- 事業内職業能力開発計画:企業全体の職業能力開発の基本方針をまとめる計画です。
- 職業訓練実施計画届:助成対象とする個別の訓練について、研修開始前に届け出る計画です。
- 事業展開等実施計画:事業展開・DX等の内容と、訓練の必要性を示すこのコースの提出資料です。
- 公式資料:令和8年8月3日版の支給要領・詳細版パンフレット・改定案内を本文中の該当箇所に掲載しています。
※本記事は2026年9月7日時点の厚生労働省の公式情報をもとにした一般的な制度解説です。個別の支給対象・助成額・受給を保証するものではありません。契約や研修開始前に最新の支給要領・パンフレットを確認し、判断が難しい場合は管轄労働局や社会保険労務士へ相談してください。
この記事について
AXメディアは、株式会社ジーズ AX事業部が運営しています。AX事業部では、AI研修・AIエージェント開発とあわせて、補助金・助成金の活用支援を提供しています。本記事は、公募要領・公式サイトなどの一次情報をもとに、AI導入を検討する中小企業の視点で整理しています。

