現在の職務に必要なAIの知識・技能を学ぶ研修は、人材育成支援コースの対象になり得ます。ただし、研修名が「AI研修」であるだけでは足りず、対象者、訓練内容、時間、経費などの条件を満たす必要があります。
社員向けにAI研修を実施する場合は、助成率だけでなく、予定している研修が制度の対象になるかを事前に確認することが重要です。この記事では、人材育成支援コースの「人材育成訓練」を中心に、主な条件と助成内容、申請前の準備を整理します。
内容は、2026年9月9日に確認した厚生労働省の8月3日版パンフレットをもとにしています。同資料は、2026年8月3日以降に提出された職業訓練実施計画届に基づく訓練が対象です。
この記事でわかること(結論)
- 検討する訓練:現在の職務に関連する知識・技能を、通常業務と分けて学ぶ人材育成訓練
- 時間と対象者:通学・同時双方向型は原則10時間以上で、受講者の雇用保険加入や出席条件も確認する
- 助成内容:通常分は正規雇用労働者等の経費助成45%、賃金助成1時間800円が中小企業の基本
- 申請準備:社内の育成計画・対象者・カリキュラム・費用・受講記録を、開始前にそろえる
人材育成支援コースでは「人材育成訓練」を確認する
人材育成支援コースは、人材開発支援助成金の一つです。職務に関連した研修を計画に沿って実施する事業主などに、訓練経費や訓練中の賃金の一部を助成します。
コース内には、人材育成訓練、認定実習併用職業訓練、有期実習型訓練、中高年齢者実習型訓練の4メニューがあります。この記事では、このうち一般的な職務関連研修に使われる「人材育成訓練」を中心に確認します。次章以降で紹介する主な要件や助成額も、人材育成訓練を前提としています。(出典:厚生労働省「人材育成支援コースのご案内」2026年8月3日版)
人材開発支援助成金のコース選びから確認したい場合は、人材開発支援助成金でAI研修費を検討する際の基本で、制度全体の位置付けを確認できます。
AI研修が対象になるための訓練・受講者の条件
AI研修を人材育成訓練として申請するには、研修内容だけでなく、誰がどのように受講するかまで含めて条件を確認する必要があります。同じ研修でも、担当する職務や受講方法によって対象可否が変わる場合があります。
AI研修の内容が職務に関連しているかを確認する
人材育成訓練の対象になるのは、通常業務と分けて実施するOFF-JTです。OFF-JTとは、通常の生産活動や業務の遂行過程と区別して行い、職務に必要な専門知識や技能を身につけるための訓練を指します。
そのためAI研修でも、「AIについて学ぶ」というだけではなく、受講者の担当業務と研修内容がどのようにつながっているかを説明できることが重要です。たとえば、通常業務の代行や業務改善コンサルティング、単なる製品説明会などは、研修という名称で実施しても対象にならない場合があります。(出典:人材育成支援コースのご案内「対象となるOFF-JT」「対象とならないOFF-JT」)
受講者と訓練時間にも条件がある
研修内容が対象になっても、それだけで助成対象になるわけではありません。企業が従業員に通学制または同時双方向型の研修を受けさせる場合は、受講者の雇用保険の状況や訓練時間、受講実績なども確認します。
| 確認項目 | 人材育成訓練の基本条件 |
|---|---|
| 雇用保険 | 原則として訓練実施期間中に雇用保険の被保険者であること。有期契約労働者等には、訓練終了日または支給申請日に被保険者である場合の扱いもある |
| 対象者の届出 | 計画届時に提出する対象労働者一覧に記載されていること |
| 訓練時間 | 1コースの実訓練時間数が、計画届時と支給申請時の両方で10時間以上であること |
| 受講状況 | 原則として実訓練時間数の8割以上を受講すること |
ここで注意したいのが、講座全体の時間と助成対象として数えられる実訓練時間が必ずしも同じではないことです。対象外となる内容の時間は除いて判断されるため、講座案内に「10時間」と記載されていても、そのまま要件を満たすとは限りません。
また、eラーニングや通信制では確認方法が異なります。原則として標準学習時間が10時間以上、または標準学習期間が1か月以上であることなどが求められ、訓練期間内に修了する必要もあります。通学制やライブ研修の「8割以上受講」という基準とは分けて確認してください。(出典:人材育成支援コースのご案内「人材育成訓練」)
オンライン研修やeラーニングを利用する場合の具体的な条件や、受講記録の残し方は、オンラインAI研修とeラーニングの条件で詳しく整理しています。
経費助成・賃金助成はいくらか
人材育成訓練では、研修費の一部を補う経費助成と、対象となる訓練時間に応じた賃金助成があります。助成率・助成額は、企業規模や受講者の雇用区分によって異なります。
通常分の助成率・助成単価
人材育成訓練の通常分は次のとおりです。企業規模は支給申請時点で判定します。
| 助成の区分 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|
| 正規雇用労働者等の経費助成 | 45% | 30% |
| 有期契約労働者等の経費助成 | 70% | 70% |
| 賃金助成(1人・1時間) | 800円 | 400円 |
なお、eラーニング・通信制は経費助成のみで、賃金助成は対象外です。
賃金要件・資格等手当要件を満たす場合は、経費助成率に15ポイント、賃金助成には中小企業200円・大企業100円が加算されます。ただし、訓練修了後の賃金上昇率などの要件があるため、加算後の額を前提に予算を組まない方が安全です。(出典:人材育成支援コースのご案内「助成率・助成額」「賃金要件・資格等手当要件」)
経費助成には1人・1訓練ごとの上限がある
経費助成は、助成率を掛けた金額がそのまま支給されるとは限りません。通学制・同時双方向型では、訓練時間に応じて1人・1訓練あたりの上限が設定されています。
| 実訓練時間 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|
| 10時間以上100時間未満 | 15万円 | 10万円 |
| 100時間以上200時間未満 | 30万円 | 20万円 |
| 200時間以上 | 50万円 | 30万円 |
eラーニング・通信制や専門実践教育訓練の指定講座では上限の扱いが異なるため、該当する場合は個別に確認が必要です。
また、原則として1人につき年度内3回まで、コース全体では1事業所につき年度内1,000万円までという制限があります。年度は支給申請日を基準に、4月1日から翌年3月31日までです。(出典:人材育成支援コースのご案内「経費助成限度額」「支給申請回数」「支給限度額」)
実際の助成額を計算するとどうなる?
例えば、中小企業の正規雇用労働者1人が20時間の研修を受け、助成対象経費が30万円だった場合、通常分の経費助成は30万円×45%=13万5,000円です。10時間以上100時間未満の上限15万円にも収まります。
さらに20時間すべてが賃金助成の対象であれば、20時間×800円=1万6,000円を加え、合計は15万1,000円です。実際の支給額は、対象経費や受講状況などの要件によって変わります。
計画段階でそろえる資料と社内体制
申請準備では、研修会社の資料を集めるだけでなく、自社の育成方針・対象者・費用負担・記録方法を一緒に確認します。
申請事業主には、雇用保険適用事業所であることのほか、訓練中の賃金支払い、解雇等の状況などの要件もあります。以下は準備の順番であり、支給要領の全要件を置き換えるものではありません。
- 社内の育成計画と担当者を整える。労働組合等の意見を聴いて事業内職業能力開発計画を作り、計画届の提出までに従業員へ周知します。職業能力開発推進者の選任も必要です。
- 対象者と訓練内容を確定する。雇用契約・雇用保険の状況、担当職務、カリキュラム、実施方法、対象になる時間数を照合します。講師や教育訓練機関の要件も確認してください。
- 費用と証明書類を確認する。事業外訓練では、あらかじめ受講案内等で定められた入学料・受講料・教科書代等が対象になります。請求書や振込記録に加え、出席・受講時間・賃金を確認できる記録を準備します。
- 開始日から逆算して計画届を準備する。原則として訓練開始日の6か月前から1か月前までに提出します。必要資料が不足したまま開始日だけを決めないことが大切です。
人材育成訓練では、職業生活や能力開発について相談する、定期的なキャリアコンサルティングの機会も確認します。対象時期を労働協約・就業規則・事業内計画のいずれかに明記し、費用は事業主が全額負担することが必要です。(出典:支給要領「06011 支給対象事業主」)
書類は厚生労働省の人材開発支援助成金ページで最新様式を確認してください。事業外訓練では、2026年5月14日から提出を求められている「受講料等の価格設定に関する疎明書」の準備も、教育訓練機関へ確認します。
支給対象経費と証拠書類は、人材育成支援コースの支給要領(2026年8月3日改正)でも確認できます。計画届の提出時期や手続きだけを詳しく知りたい場合は、計画届を研修前に提出する際の注意点を参照してください。
実務上の注意
人材育成訓練として申請する場合は、次の3点も開始前に確認しておきましょう。
通常業務の成果物を完成させることと、技能の習得を区別する
自社の情報を題材に学ぶことと、業務改善の指導や実際の事業成果物を作ることは別です。公式資料では、業務改善のコンサルティングや通常の事業活動に当たる内容が対象外として整理されています。AIに業務を代行させるサービスを、研修費として扱わないようにしてください。(出典:人材育成支援コースのご案内「対象とならないOFF-JT」)
受講料の実質負担と関係会社との取引を確認する
訓練経費は、原則として支給申請日までに事業主が全額を負担する必要があります。請求書上は支払っていても、返金や別契約で実質的に負担していない場合は対象外になり得ます。関係会社・親族との取引にも対象外となる条件があるため、契約全体を確認してください。(出典:人材育成支援コースの支給要領、厚生労働省「令和8年4月8日からの変更点」)
計画届の受理を支給決定と考えない
計画を提出しただけで支給が確約されるわけではありません。実際の訓練、受講状況、費用負担なども確認されます。適用される制度の版と最新様式を区別し、日程や対象者を変える場合も、管轄の労働局へ必要な手続きを確認してください。(出典:人材育成支援コースのご案内「申請にあたっての注意事項」「変更届」)
まとめ
人材育成支援コースでAI研修を検討するときは、人材育成訓練の条件に、対象者・内容・時間・費用が合うかを先に確認します。助成率だけを見て講座を選ぶと、出席条件や費用の上限を見落としかねません。
まず対象者の情報とカリキュラム、費用内訳、実施日程をそろえ、通常分の助成額で試算しましょう。判断が難しい部分は、訓練を始める前に資料を示して管轄の労働局へ確認することが次の行動になります。
よくある質問
人材育成訓練を使ってAI研修を行う際の疑問を整理します。
AI研修という名前なら、人材育成支援コースの対象になりますか?
研修名だけでは決まりません。受講者の職務に関連した知識・技能を学ぶ内容であることに加え、訓練形式・時間・対象者などの条件を確認します。
人材育成訓練は正社員だけが対象ですか?
正社員だけに限られず、有期契約労働者等も対象になり得ます。雇用保険の加入状況や、制度上の対象労働者区分を確認する必要があります。
20時間の研修なら、経費助成と賃金助成の合計も15万円までですか?
中小企業の15万円という上限は、該当時間区分の経費助成に対する上限です。要件を満たす賃金助成は別に計算します。
eラーニングでも1時間800円の賃金助成を受けられますか?
eラーニング・通信制は賃金助成の対象外です。経費助成の要件、修了状況、上限額を確認してください。
関連する用語・出典
制度全体と訓練メニューの名称を区別すると、適用条件を読み違えにくくなります。
- 人材開発支援助成金:事業主などによる計画的な職業能力開発を支援する助成金
- 人材育成支援コース:人材育成訓練など4つの訓練メニューを持つコース
- 人材育成訓練:職務に関連する知識・技能をOFF-JTで習得する訓練メニュー
- 経費助成:要件を満たす訓練経費の一部に対する助成
- 賃金助成:所定労働時間内の訓練など、要件を満たす時間に対する助成
※本記事は2026年9月8日時点で確認した厚生労働省の公式資料に基づく一般的な情報です。個別の訓練・経費の対象可否や助成金の支給を保証するものではありません。計画届の提出日等に応じた適用要件と最新様式を確認し、判断に迷う場合は管轄の労働局へお問い合わせください。
この記事について
AXメディアは、株式会社ジーズ AX事業部が運営しています。AX事業部では、AI研修・AIエージェント開発とあわせて、補助金・助成金の活用支援を提供しています。本記事は、公募要領・公式サイトなどの一次情報をもとに、AI導入を検討する中小企業の視点で整理しています。

